F10 アクリル水彩
竹取物語より
かぐや姫に月からのお迎えが来るのが
明日の晩と迫っておりました。
竹取のじい様に助けられ
美しい姫と育ってきたのでございます。
姫にはこの事が分かっておりました。
並み居る青年たちの誘いも見向きもしなかったのはそのせいでありました。
明日への支度を急いでおりましたので御座います。
いつもそばに居た黒猫が姫のそんな様子を不思議そうに眺めておりました。かぐや姫は他の銀河系の星より月への移住の時に宇宙船が壊れ、赤子だった姫を竹やぶの中に家族が避難させました。地球の人ではございませんでした。
無事に月にたどり着いた家族のお迎えです。その事を何故か懐いているこの黒猫にも伝えなければならないと漸く話し始めたので御座います。
「私はこの星のものでは無いの。産まれたばかりの私をこの星に避難させてね、月にたどり着いた家族が明日の夜お迎えに来てくれるの。だからあなたともお別れなのよ。分かって頂戴ね。
」それを聞いた黒猫は涙が止まりませんでございました。この黒猫も実は他の天体から地球に不時着した青年の化身でございました。
後から後から流れ出る涙。
其れが集まりて大きな河の流れになるほどでございました。
全部理解をしておりました。ですが猫は言葉を持ちません。姫に伝える術が無いのでございました。哀しくて哀しくてたまりません。一緒に月に行きたくてもほかの天体の者はついては行けないのでございました。
明日姫のお迎えが来たら僕はこの河に身を投げてしまおう。姫のいない地球に未練はもはやございませんでした。
お別れでございます。明日月からのお迎えが来たらお別れでございます
真昼の月はことの他白く大きくて美しく、其の姿を見せておりましたのでございます。
足元には涙の河が轟々と音を立てて流れております。
悲しい黒猫青年の片思いの恋はもうすぐ終わろうとしておりましたのでございます…。
2024.2.13